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最近話題のメタバースとは!現状と今後の展望(展望編)

みなさん、こんにちは。NRIデジタルの庭野幹生です。
私たちNRIデジタルではCoE(Center of Excellence)活動として新技術の探索・検証や先行事例の調査を行っております。
概要編ではメタバースとはどんなものなのか、なぜこれほどまでに話題なのかについてご紹介しました。
本記事では、メタバースが今後どのようなビジネスに活用されていくのか、メタバースを活用したビジネス成功のためのポイントや乗り越えるべき課題についてご紹介します。

  • メタバースのビジネスチャンス
  • メタバース実現に向けた課題
  • まとめ
  • メタバースのビジネスチャンス

    今後、メタバースを活用した多くのビジネスが登場するでしょう。Metaはそういったメタバースビジネスの成功には大きな3つのポイントがあるとしています。

    1. 今のアプリに注力すること

    インターネットは、次世代のデジタルプラットフォームであるメタバースに置き換わるだろうと言われており、いずれはスマートフォンやPCに代わりVR・AR機器を主に使うようになるのかもしれません。しかしながらそれは今日明日の話ではありません。直近でメタバースを体験するのはやはりスマートフォンアプリやWebアプリを介したものになるでしょう。そのためMetaは今のアプリ「Facebook」「Instagram」「Messenger」「WhatsApp」のビジネスに注力することが、将来、メタバースでのビジネス基盤になるとしています。

    2.仮想世界と現実世界の融合

    メタバースは仮想世界の中だけでなく、現実世界にも影響を及ぼします。すでに現代はオンラインとオフラインが入り混じった状態であり、コロナ禍にあるこの2年余りはそれが顕著になりました。Metaはメタバースによってこのオンラインとオフラインの繋がりがよりシームレスになるとしています。
    例えばすでにARを用いてバーチャルな家具や服のコーディネートを試すことができるような取り組みもされています。実用化されれば、買い物の仕方も変わってくるでしょう。メタバースと現実世界の繋がりを念頭に置いたビジネスデザインが重要になりそうです。

    3.様々なプレイヤーと協力し、安心・安全なメタバースを構築すること

    インターネット同様、メタバースにおいてもプライバシーや安全性は非常に重要であり、Metaはこれらをメタバースにおける重要な基礎だとしています。またプラットフォームを超えて自分の所有物を持ち運べるよう、プラットフォームを標準化したり、そのためのエコシステムを構築することも重要です。
    これらを達成するためには一企業の取り組みでは不可能です。そのためにMetaは企業、クリエイター、政府、学術機関など世界中のプレイヤーが協力しあうことが必須だとしています。

    概要編ではメタバースがゲームやライブなどのエンターテイメントに活用される例を見てきましたが、今後それ以外にどんなビジネスへ展開されていく可能性があるのでしょうか。ここでは、「コマース」「コラボレーション」「デザイン」「製造」「トレーニング」「都市との連動」というメタバースの利用例や構想をご紹介します。

    コマース

    ECサイトで商品を購入する際は、それが本当に自分が想像しているようなものか注意する必要がありました。しかしながらメタバース内で実際に商品を手に取り確認ができればそういった問題も少なくなるでしょう。また物理的な商品だけでなくメタバース内の仮想的な商品を買うという選択肢も出てきます。すでにアバター用のアイテムをリリースしてるファッションブランドもあります。

    Ralph LaurenはメタバースプラットフォームZepetoと提携しアバター用のアイテムを開発しました。また、GUCCIはARでのみ着用できるスニーカーをリリースしました。

    (出典:Ralph Lauren Announces an Exclusive Partnership with Zepeto
    商品販売のチャネルや商品そのもののバリエーションがさらに増えていきそうです。

    コラボレーション

    COVID-19により、多くの人がリモートワークを余儀なくされ、その生活に慣れつつもありますが、やはり以前ほどコミュニケーションが十分に取れているとはいいがたいのが現状です。
    メタバースを活用することで、離れた場所にいながら対面の場合と遜色ないコミュニケーションを取ることができると期待されています。会議をするだけでなく、データの共有もこれまで以上にスムーズになるかもしれません。
    MetaとMicrosoftはこのようなコラボレーションツールとしてのメタバースをすでに発表しています。

    Horizon Workrooms

    Horizon WorkroomsはMetaが提供する、OculusのVR技術を活用したメタバースサービスです。
    ユーザーはVR空間内でアバターの姿でミーティングをすることができます。デスクの位置を現実と同期させる機能、ホワイトボード機能、リモートデスクトップとキーボードの認識を使ってPC画面を操作する機能、ビデオ通話機能などを備えています。
    動画を見る限り、想像以上にリアルに近いミーティングが行える印象を受けました。身振り手振りや表情など、非言語でのコミュニケーションが可能になることの影響は思った以上に大きいのではないでしょうか。
    デバイスがそれなりに大きいことや目の疲れなど課題もありそうですが、ブレインストーミングなどの活発な議論が重要になるミーティングではかなりの効果を期待できそうです。

    Microsoft Mesh

    またMicrosoftも2022年にMR(複合現実)プラットフォーム「Microsoft Mesh」のTeams対応版となる「Mesh for Teams」を提供開始予定であると発表しました。
    こちらもMRデバイスを用いてアクセスできる仮想空間で、3Dオンラインミーティングの開催が可能です。
    MicrosoftデバイスであるHololens 2やWindows MRだけでなく、サードパーティ製のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)でも動作するとのことで、更にメタバース導入の間口が広くなりそうです。
    Mesh for Teamsでは、Microsoft Meshの複合現実機能と、Teamsの生産性ツール(チャットや共同作業可能なドキュメントなど)が融合しています。
    ユーザーは自分のアバターを作成し、Teamsのミーティングに参加でき、他の参加者もアバターで参加したり、ビデオや写真で参加したり、吹き出しで話したりできるようになります。

    デザイン

    3Dモデリングはこれまでも建築や工業のデザインでは使われてきましたが、メタバース内のデジタルツインを用いることでより高度な設計や開発が可能になるかもしれません。またヘルスケアやライフサイエンスといった、これまで3Dモデリングの利用があまり見られなかった分野についても展開が期待できます。
    NVIDIAはすでに自動運転車のデジタルツインをホストするためのNVIDIA DIRIVE Simや、操作ロボットのデジタルツインをホストするためのNVIDIA Isaac Simを開発しています。また国内でも、建築専用のメタバースプラットフォームであるcomonyが登場しています。

    (出典:Omniverseを基盤とするNVIDIA Isaac Simのオープンベータ版をリリース

    製造

    製造業の分野ではMicrosoftがエンタープライズ向けのメタバースの開発に取り組んでおり、それはIoT・デジタルツイン・MR(複合現実)を統合したものになるだろうとしています。
    まずは人・物・環境・場所あらゆるものについてデジタルツインを作成します。例えば工場であれば、IoT機器などから取得したデータを元に従業員、工場のラインや設備そのものを複製します。
    このデジタルツインはAzure上に構築され、Azureが有するシミュレーションやアナリティクスツールを用いることができます。ここで得られた分析結果や最適化の結果をまたIoTを通じて現実世界に反映することで時々刻々とアップデートさせることができます。
    世界最大の醸造メーカーであるAnheuser-Busch (AB) InBevは、既にこのデジタルツインを用いて最新の状況に合わせたオペレーションを行い、品質の高い商品を製造すると同時に、事業目標や持続可能性目標も達成しています。
    最終的にはこのデジタルツインをメタバースととらえ、Mesh for teamsやofficeなどその他さまざまなMicrosoftサービスと組み合わせることで、分析やシミュレーションからコミュニケーションに至るまで、ビジネスのあらゆることを行うことができる巨大なプラットフォームを構築していくと考えられます。

    (出典:https://www.microsoft.com/en-us/videoplayer/embed/RWEBCx

    トレーニング

    フライトシミュレーションのように仮想トレーニングは以前から存在していましたが、メタバースの活用によりそれ以外の領域にも展開が期待できます。災害時の実地訓練や、物理的なオブジェクトが必要なトレーニングについては専用の施設などがなければ難しかったですが、仮想空間上で行うことでこれまで以上にコストを抑え、かつ習熟度を高めることができるでしょう。またモノづくりなどの分野では技術が属人化してしまう問題がありましたが、メタバース上でデジタルツインを作製すれば、多くの人にノウハウを伝授することが可能です。STRIVRはカスタマーサービスやソフトスキル、スポーツなどの分野におけるVRトレーニングソリューションを提供しています。

    都市との連動

    メタバースは現実とは全く異なった仮想世界だけではなく、現実世界とも地続きで繋がり相互に連携していくと考えられるとお伝えしましたが、実際の都市との連動も進んでいます。

    メタバースソウル

    韓国のソウル特別市はメタバース・プラットフォーム「メタバースソウル」を構築し、導入(2022)-拡張(2023年から2024年)-定着(2025年から2026年)の3段階に分けて経済や文化、観光、教育、市民サービスなどの行政サービスを提供する予定です。
    2022年には仮想市長室、ソウルフィンテックラボ、インベストソウル、ソウルキャンパスタウンなどソウル市の各種企業支援施設やサービスなども、メタバースの中に順次実装していきます。
    観光や文化の分野では、光化門広場、徳寿宮、南大門市場などソウルの人気観光スポットを「仮想観光特区」として造成し、敦義門などのように焼失した歴史資源も仮想空間として再現されます。2023年からはソウル・ランタンフェスティバルなどソウルを代表するお祭りもメタバースで開催し、全世界の人々が仮想空間を通じて参加できるようになります。

    バーチャル渋谷

    日本においてはKDDIがメタバースプラットフォームを提供するClusterと提携し、渋谷の街並みをメタバースとして再現する「バーチャル渋谷」の取り組みを進めてきました。
    バーチャル渋谷は渋谷区公認のもと、SHIBUYA109やセンター街など、渋谷の象徴的な街並みをバーチャル空間上にそのまま再現し、実際の渋谷の街並みを歩いているような体験ができるプラットフォームです。


    これまでは実証実験としてバーチャル渋谷上でハロウィーンイベントなどを展開してきましたが、2022年春ごろには「バーチャルシティ構想」として本格的なプラットフォームの投入を検討しています。
    都市連動型メタバースではリアルとバーチャルがこれまでよりも密接に関連すると期待されます。
    例えば現実店舗がメタバースの同じ位置にも出店しアバターのアイテムを購入できる、逆にメタバース内の出来事が現実のスクリーンにも映し出される、といった具合です。
    バーチャル渋谷では、メタバース内での行政サービスの展開も検討しているといいます。これが実現すれば平日にしか行けないような役所へも、仕事の合間に気軽に行くことができるようになるかもしれませんね。
    ビジネス支援だけでなく、学校説明会や就職活動など、これまで遠隔地では参加困難だったイベントなどについても展開できそうに思います。

    メタバース実現に向けた課題

    社会課題

    インターネットの普及によって私たちの生活は豊かになった一方で、プライバシーや著作権の侵害、匿名での誹謗中傷など様々な問題が生まれました。メタバースにおいても同様に新たな社会課題が発生する可能性があり、それに伴う法整備も必要になります。
    Metaではある女性のβテスターがHorizon Worlds内でアバターによるセクハラ行為を受けたと訴え話題になりました。今後も同様の問題が起きる可能性は高く、その際に現実世界と同じ法律が適用されるのかといった問題は事前に考えておく必要があります。またそのような行為を防止する機能をきちんと実装しておくことも重要になるでしょう。
    またSocial Europeによれば、メタバースは労働問題を引き起こす可能性があるといいます。メタバース空間内でのスタッフはリモートワーカーでよいため、今までは物理的距離という壁で守られていた途上国の人々が今以上に低賃金で雇われる可能があります。また労働規制は誰の定めにのっとるのか、プラットフォーマーが定める規制か、それともその中で事業を展開する事業者の規制か、など考えるべきことは多くあります。
    メタバースに関する法的問題やガバナンスを整理するための取り組みも行われています。例えば、KDDIを中心としてバーチャル渋谷に関わる事業者4社が「都市連動型メタバース」のガイドライン策定を目指す団体「バーチャルシティコンソーシアム」を立ち上げました。リアルの都市と連動した商行為がメタバース内で行われた場合にどのように収益を分配するのか、メタバース内での市民権を得ることはできるか、アバターに肖像権はあるのかなどについて協議していくといいます。

    (出典:バーチャルシティコンソーシアム

    標準化

    メタバースは現実世界と同等の経済活動が可能であることが期待されますが、それには自身の分身そのものであるアバターや、所有物がプラットフォームを超える必要があります。他の県や他の国に行くには、この服では不可能、ということは現実世界ではありえません。
    そのためはメタバースプラットフォームに用いられる技術の標準化が非常に重要です。

    OS

    Outlier Venturesは、メタバースをよりオープンに利用するために、ブロックチェーンを用いて分散化されたOSであるOpen MetaverseOSを提案しています。

    3DG

    また、3DGの分野の標準化についてはKhronosという非営利団体が力を入れて取り組んでます。KhronosはNVIDIA、Valve、Googleやその他小規模の新興企業など約160のメンバーからなる団体です。現在は「3DアクセラレーションAPI」「3D アセットフォーマット」「XR規格」「並列処理API」の4分野の企画の開発に注力しています。ここでは3DGに関するKhronosの代表的な規格として3つご紹介します。

    ・3DアクセラレーションAPI 「Vulkan®」
    Vulkan®はオープンスタンダード・ロイヤリティフリーのグラフィックスAPIであり、ほぼすべてのGPUベンダーが採用しています。デスクトップ、モバイルデバイス、クラウドなどあらゆるプラットフォームで利用することができます。ハードウェア層に近いローレベルな制御によりハードウェアの性能限界を引き出すことができます。

    ・3Dアセットフォーマット「glTF™」
    glTF™は3Dモデルを表現するフォーマットであり、しばしば3DにおけるJPEGとも呼ばれます。glTF™ではJSONを使用して3Dシーンまたはオブジェクトを記述し、バイナリデータを使用してデータ量の多いジオメトリ、アニメーション、スキンを記述します。

    ・XR規格「OpenXR™」
    OpenXR™はVR・ARプラットフォームにおけるアプリケーションとデバイス間の規格です。この規格により、デバイス開発者はプラットフォームごとのデバイスドライバの対応が容易になる、プラットフォーム開発者はデバイスドライバごとのランタイムシステムの対応が容易になる、アプリケーション開発者は各プラットフォームや各デバイスへの展開が容易になる、とそれぞれがメリットを享受することができます。

    (出典: The Khronos Group

    まとめ

    アニメや映画で見るような仮想世界はまだもう少し先かもしれませんが、十分実用に足るVR型のメタバースが登場してきたなという印象です。
    進捗を確認するような通常の会議であればZoomなどのビデオ会議などでも十分かもしれませんが、ブレインストーミングのようにアイデアやネタを出す際は確実に対面の会議の方がよいように感じます。

    COVID-19の更なる感染拡大も懸念される中、よりリアルに近いミーティングツールとしてHorizon WorkroomsやMesh for Teamsが現実的な選択肢として挙げるのも近いかもしれません。一方でデバイスの大きさや装着の不快さが導入のネックになっている部分も大きいと思われます。脳波による操作がより高精度になることで操作が簡略化されたり、デバイスそのものの小型化が進んだりすることを期待したいと思います。

    Metaがいうように、現状では私たちがメタバースとつながるチャネルはスマートフォンやPCだと思われます。すでにclusterやVket、ZepetoなどはスマートフォンやPC向けのメタバースプラットフォームの提供を開始しており、自身でワールドやアバターを作成しユーザーと交流することができます。いずれ来るであろうVRやARでメタバースに入り自由に飛び回れる時代に備えつつ、まずは現状のスマートフォンやPC向けのプラットフォーム等を使ってみるというのも重要かもしれませんね。CoE新技術チームでもclusterを用いたワールドの作成を試みていますので、今後記事でご紹介したいと思います。

    参考記事