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最近話題のメタバースとは!現状と今後の展望(概要編)

みなさん、こんにちは。NRIデジタルの庭野幹生です。
私たちNRIデジタルではCoE(Center of Excellence)活動として新技術の探索・検証や先行事例の調査を行っております。
本記事では、直近ではFacebookがMetaへと社名変更したことでも話題の「メタバース」についてご紹介します。

メタバースとは

メタバースとは、多数の参加者がその中で自由に行動できることができるネットワーク上に作られた仮想空間のことです。
メタバースという言葉は、meta(超える)とuniverse(宇宙)をかけ合わせた造語であり、元々はSF小説「Snow Crash」の作中で登場するインターネット上の仮想世界の名称を指します。
メタバース内でユーザーはアバターを操作し、自由に様々な行動をすることができます。ここで、MMORPGなどとは異なりシナリオなどによってユーザーの行動が制限されないことがメタバースの大きな特徴です。
実際にはメタバースには厳密な定義はなく、人によって様々な意見がありますが、現段階では「誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上のバーチャル空間」と考えてよいでしょう。

「メタバース」というワードが一気に広まったきっかけの一つは、FacebookのMetaへの社名変更です。この出来事に代表されるようにテックジャイアントもメタバースに高い関心を示しています。

GoogleやAmazon、Appleは声高らかにうたってはいないものの、各社スマートグラスの開発を進めており、ARやMRを軸にメタバースサービスを展開していくと考えられます。Meta、Microsoftに関してはどちらも今後メタバースに注力すると大きく公言しており、バーチャルミーティングサービスを展開していく予定です。また中国ではテンセントがEpic GamesやRoblox、Discordなどメタバース関連で株価が上がっている企業への投資を早くから行っているなど、中国企業でも盛り上がりを見せています。

このような注目度の高さゆえに、米調査会社エマージェンリサーチの分析によるとメタバースの市場は2020年の47.6億ドルから2028年の8289.5億ドルへと、CAGR(年平均成長率)43.3%で成長すると予測されています。

実は昔からあるメタバース

メタバースという言葉は最近聞くことが多くなってきたため最新のもののように感じますが、それ自体は意外と古い概念です。
これまでにもメタバースに分類できるゲームやサービスは多数登場しています。
下記にメタバースを活用したゲームの例を挙げます。どれか一つでも触れたことがある人も多いのではないでしょうか。

Second Life(出典:Second Life)
  • 2003年にLinden Lab社からリリースされたメタバースブームの火付け役。
  • 仮想空間の中でコミュニケーションを取れる以外にも、商品を売買したり、ゲーム内の通貨を現実の通貨に換金することができる。
Fortnite(出典:フォートナイト – バトルロイヤルなどが楽しめる無料プレイゲーム)
  • ユーザーがコンテンツを作れるクリエイティブモードがあり、自分のスキンや動きを自分で作り出すことができる。
  • ゲームプレイだけではなく、コミュニケーションツールとしての側面も持ち合わせている。
  • 米津玄師やアリアナ・グランデのライブを開催、ユーザーが一つの場所に集まって同じライブ映像を見ながら交流することが可能。
Minecraft(出典:Minecraft について)
  • ユーザーが建造物や世界を自由に構築することができるゲーム。
  • アバターのコスチュームを変更したり、自分なりの建物や土地を構築したり、プレイヤー同士でサバイバルを楽しんだりと、さまざまな要素から自由にゲーム内の世界を楽しめる。
あつまれどうぶつの森(出典:あつまれどうぶつの森 ハッピーホームパラダイス | Nintendo Switch | 任天堂)
  • 無人島に移住し、そこでの生活を楽しむコンテンツ。
  • 通常のゲームのようにシナリオが用意されているわけではなく、ユーザーは花を育てたり、釣りをしたり、商品を売買したりと、現実と同じように生活を送ることができる。

なぜメタバースが注目されているのか

なぜ昨今様々なプレイヤーがメタバースに注目し、これほどまでに話題が絶えないのでしょうか。

メタバースのブームにはCOVID-19による影響が非常に大きいといえます。COVID-19の影響により多数の人が集まるイベントが中止になったり、開催する場合にも非常に厳しい制限がかけられるようになりました。働き方もこれまでのような出社中心からテレワーク中心となりました。このような状況下でコミュニケーションの形式はオンライン会議ツールやチャットツールへシフトしており、更にリアルに近いコミュニケーションの形式としてメタバースへの注目が高まってきています。

また技術的な側面でいえば、「IoT・デジタルツイン」「VR・AR技術」「暗号資産・NFT」の発展もメタバースブームを押し広げている要因です。

このような背景をもとに各社がメタバースへ関心を寄せ、そしてFacebookからMetaへの社名変更により一般周知が急速に広まりました。実際にメタバースがGoogleで検索された件数はMetaへの社名変更があった2021年10月以降急増しています。

(出典:Google Trends Google Trendsによる全世界における“Metaverse”の検索)

次は「デジタルツイン」「VR・AR技術」「NFT」といった技術がメタバースとどのように結びつくのか、それにより何ができるようになるのかについてご紹介します。

デジタルツイン

デジタルツインとは「現実空間にある情報をIoT機器などで集め、送信されたデータを元にデジタル(仮想)空間で現実空間を再現する技術」を指します。現実空間の環境を仮想空間にコピーする鏡の中の世界のようなイメージであり、「デジタルの双子」でデジタルツインと呼ばれています。人・モノ・工場・都市など様々なデジタルツインが登場しています。

具体的にデジタルツインはメタバース内でどう活用されるのでしょうか。例えばECサイトで服を購入する場合、サイズを間違えることはよくあるかと思います。一方、メタバース内で自分自身のデジタルツインが服のデジタルツインを試着できるようになれば、サイズを間違えることはありません。このようにデジタルツインを用いることで、メタバースを検証環境として利用することができます。

デジタルツインを活用したメタバースサービスも登場しています。

製造

NVIDIAは「Omniverse」という3Dコラボレーション/シミュレーションプラットフォームを提供しており、デジタルツインの作成やコラボレーション、シミュレーションをすることができます。BMWでは工場にOmniverseを導入しており、メタバース内のデジタルツインを用いて生産や製造のシミュレーション、ロボットのプログラミング、現場での作業指示の連携などを行うことにより生産計画にかかる時間を30%短縮したとしています。またAmazonの配送センターでもOmniverseが導入されています。Amazonが持つ200以上の配送センターでは、1日に数千万単位の荷物を処理しており、そのために50万台以上のロボットが稼働しています。その複雑なオペレーションを強化するため、メタバース内のデジタルツインを用いて機械学習を行い、倉庫の設計や荷物の導線の最適化を図っています。


都市計画

日本では国土交通省が現実の都市をデジタル空間に再現する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化事業として「Project PLATEAU」を推進しており、すでに東京23区をはじめとした全国56都市の3D都市モデルを整備しオープンソース化しています。これらの3D都市モデルは、単に2次元の地図を3次元にしただけでなく、「名称」や「用途」「行政計画」「築年数」「階数」などの属性情報が付与されており、都市そのものをデジタル空間上で再現しています。これまで、各自治体に分散していた建物や人流、環境、エネルギーのデータなどを3次元化した地形データと統合することで、都市計画立案の高度化や都市活動のシミュレーションなどが可能となります。


VR・AR

VR(Virtual Reality)とは仮想現実と訳され、バーチャル空間に自分自身が入り込む技術です。AR(Augmented Reality)とは拡張現実と訳され、スマートフォンやスマートグラスを通じて現実空間にデジタルコンテンツを付加する技術です。VR・AR技術の発展により、3DCGをスクリーンに表示させるだけではなく、ゴーグルを通じて仮想世界にいるような視覚体験やコントローラーを用いた身振り手振り、顔の表情などを通じてアバターを自由に操作することが可能になりました。

メタバースは決してVRやARに限定されるものではありませんが、これからのメタバースにはやはりそれらの重要性が増してきそうです。米国では既にメタバースをテーマにしたETF(上場投資信託)が登場しています。その中からRoundhill社が展開するメタバース関連企業(全50社)に投資をするETFの組入れ上位銘柄を見てみると、Roblox、NVIDIA、Unity、AutodeskといったVR・ARや3Dモデリングに関連する企業が名を連ねています(2022/4/8時点)。

NFT

NFT(Non-Fungible Token)はブロックチェーン技術をもとに作られたトークンの一種であり、下記のような特徴を持ちます。

  • ブロックチェーン上で発行されたトークンであり、耐改ざん性を持つ
  • 別の全く同じ価値の物があったとしても、それと交換することができない(それぞれ固有の価値を持つ)

NFTは、このような特徴から、アート作品やゲーム内のアイテム、キャラクター、音楽、動画などのデジタル作品、不動産や会員権などの所有権と結びつけることで、偽造不可能な鑑定書・所有証明書として働きます。これにより、デジタルデータに希少性や所有権といった物理的な物体と同じような属性を付加することができます。
当然ながら、メタバース内のデジタルアイテムについても同様で、メタバースとNFTが組み合わさることでより多様で大規模な経済活動がメタバース内で行われるようになると期待されています。

このようにNFTはメタバースを構成する重要な要素の一つとして位置づけられつつあります。現実の偽ブランド品のように、偽物のデータはカッコ悪い、という価値観が生まれてくるかもしれません。

既にNFTはゲーム業界を中心に多く利用されており、NFT化された様々なゲームアイテムやキャラクターがマーケット上で取引されています。ここではイーサリアムブロックチェーン技術を基盤としたメタバースプラットフォームである「The Sandbox」を紹介します。ユーザーはメタバース上にLANDと呼ばれる土地を購入することで、オリジナルのゲームやアイテム、キャラクター、サービスを作成することができます。The Sandbox内のLANDやアイテム、キャラクターはNFT化され、マーケットプレイスで売買することが可能です。

まとめ

メタバースは次世代のインターネットの形と呼ばれることがありますが、インターネットと同等かそれ以上に我々の生活を一変させる力があるように思います。いつ頃までに、どのくらいの規模で実現するのかは分かりませんが、今後もメタバース関連のニュースにはアンテナを張っておく必要がありそうです。

これまでのメタバースというとゲーム的な側面が強い印象でしたが、最近ではMetaのHorizon Workroomsのようなコラボレーションツールや、NVIDIAのOmniverseのようなシミュレーションツールが登場し展開の幅が広がってきています。

次回の記事では、現在ではどんなメタバースサービスが登場しているのか、メタバースを活用して今後どのようなビジネスが登場するのか、メタバースが普及するにはどのような課題を乗り越える必要があるかについてご紹介したいと思います。

参考記事