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多様な専門性を持つNRIデジタル社員のコラム、インタビューやインサイトをご紹介します。

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最良の未来予測は、自ら事業を創り出すこと

DX企画 プロデューサー
中村 博之

自主事業の創造とデータサイエンス

NRIデジタルでの私の役割は、自主事業の創造だと認識しています。具体的には、世の中に新しい価値を生む事業を、自ら、もしくは事業会社と共同してつくりだすこと。直近では、JALのお客さまに対して「人生を豊かにする体験」を提供する会員制サービス「CLASS EXPLORER」の創設に携わりました。JALが保有する会員のさまざまなデータを活用して、顧客の潜在的なニーズや興味を引き出し、一人ひとりに合わせて体験を「お見立て」する内容です。

このサービスは、それ以前にJALとのコラボで立ち上げた旅行サービス「どこかにマイル」の「セレンディピティ(偶然発見する幸運)のある体験」の発想が出発点になっています。人は自分が好きなこと、興味があることを実はわかっていません。何かで気づかされて「私はこれが好き」と自覚する。その潜在需要を見つけるのに、データサイエンスはとても有用だと思っています。

黎明期のインターネットと未来予測

振り返れば私は昔から、事業創造志向を持っていました。野村総合研究所(NRI)在籍時も、自分で何本も自主事業を企画しています。2000年代に、テレビは現在のネットフリックスのようなオンデマンドのサービスに置き換わると予測して、「NGTV(次世代TV)」という事業を立ち上げたこともあります。たくさんの失敗もしました。それでも私が事業創造にこだわるのは、20代の頃の印象的な経験と、未来予測の仕事がきっかけになっています。

私は、日本のインターネット黎明期に大学の研究室でネットの世界を知りました。1992年にNRIに入社後は、会社の初代ウェブマスターを務めました。アメリカの伝説のソフトウェア開発者マーク・アンドリーセン氏に会いに行ったこともあります。彼は、起業家のジム・クラークとともにネットスケープ・コミュニケーションズを立ち上げ、ウェブブラウザーをつくった人です。インターネットビジネスの初期の現場を実体験し、世の中に浸透していく過程とともに仕事をしてきた私は、眼前で未来がつくられる興奮を味わいました。

その後私は、NRIで未来予測の仕事に携わります。アメリカのリサーチ会社と提携して、未来予測のさまざまな手法を学び、世界の最先端の研究所で生まれた技術などを見続けました。計算機科学者のアラン・ケイは「未来を予測する一番よい方法は、自分で創ることだ」を述べています。私の座右の銘であり、新事業創造にこだわる源泉になっています。

未来予測と失敗経験を踏まえて、新しい市場を創る

とはいえ、新事業を実現するのは難しい。事業がつぶれたり、そもそも立ち上がらなかったりという経験を、私は何度もしてきました。私が若い頃に会ったマーク・アンドリーセン氏は、2009年に起業家のベン・ホロウィッツとともに「アンドリーセン・ホロウィッツ」というVCを立ち上げました。両者ともイノベーションを起こした経験と、失敗をして辛酸をなめた経験があります。だから目利き力があり、事業を起こす人の立場でチャレンジを応援します。NRIデジタルにも似ているところがあって、この会社で意思決定に関わるのは、会社設立や事業開発の経験者たちです。もちろん失敗も重ねています。だから、新事業を立ち上げようとする人を支える姿勢があります。私も同様に、自分の失敗経験を生かしてサポートしたいと考えています。

今後、人口減少に直面する日本の諸課題を解決するには、競合からシェアを奪うようなゼロサムゲームではなく、プラスサムの新市場創出が必要です。人が喜んでお金を払いたいと思う体験はどんなことなのか。未来予測からは、その一つは「メタバース」だと思われます。一方私は、1996年の最初のメタバース(当時は三次元仮想空間)ブームの際にサービス企画に失敗した経験を持っています。コンセプトは現在のメタバースと大きな違いはありませんが、技術や環境が成熟していなかったのです。いま私は、過去の失敗や未来予測の経験をフルに活かして、現実世界と高度に融合したメタバースサービスによって新しい市場を創造する活動に邁進しています。

 

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