SPECIALIST

多様な専門性を持つNRIデジタル社員のコラム、インタビューやインサイトをご紹介します。

BACK

プライバシーテックでデータ活用社会を加速! プライバシーとデータ活用を両立する「秘密計算技術」とは?

みなさんはじめまして。NRIデジタルの西原です。
現在私は、今後利用できそうな新技術についての技術調査などを実施しています。その中で、秘密計算(秘匿計算とも呼ばれる)というプライバシー技術に注目し、事業化検討などの活動を行っています。秘密計算とは一言で説明すると、「データを暗号化したまま計算するプライバシー保護技術」です。本ブログでは、その秘密計算の概要と、秘密計算をデータ分析に活用することで得られる効果についてご紹介します。

データビジネスの現状

近年、情報通信分野の技術革新によって、社会全体のデジタル化は大きく進もうとしています。このような社会全体のデジタル化にともなって、例えばオンラインショップの購買履歴やIoTデバイスから取得される情報などといった多種多様なデジタルデータが生み出され、それらのデータは企業に蓄積されています。「データは21世紀の石油である」と言われ、データを活用した新たなビジネス価値創造・社会課題解決が、企業にとって非常に重要なテーマの一つとなっています。
今後、さらなる高度なデータ活用の実現には、データ分析手法の高度化、データの量や質の向上の2点が重要であると考えています。特に後者のデータの量や質の向上について、秘密計算が大きなブレイクスルーを起こすのではないかと考えています。

秘密計算とは

秘密計算とは「データを暗号化したまま計算するプライバシー保護技術」です。
秘密計算では、データを保持する側がデータを暗号化した上で、分析・計算する側へ渡します。分析の過程では、暗号化が一度も解かれることなく、データの中身が分からない状態で計算され、計算結果のみが出力されます。従来、暗号化して保存しているデータも、分析の際は必ず復号化する必要がありましたが、秘密計算を活用すれば復号化せず分析することができ、よりセキュリティレベルを向上させることができます。

秘密計算の導入効果

秘密計算を活用すると、分析対象のデータを見ずに(見せずに)分析を実施できるようになり、セキュリティの向上に伴って、消費者と事業者どちらにも良い効果をもたらします。

  • 消費者視点
    分析時のデータが暗号化されたままなので、プライバシーが保護され安心
  • 事業者視点
    企業間データ利活用の際の消費者からの同意を得やすくなり、企業間でのデータ利活用が可能となる
    企業間データ利活用の際に、自社データを他社が不正に利用、流出させるリスクが無くなる

このように、秘密計算を導入しプライバシー保護のレベルが向上することで、よりデータを収集・共有しやすくなり、企業におけるデータ活用が促進できると考えています。より具体的に、従来のデータ活用が秘密計算を活用することでどのように変わるかを見ていきましょう。

1.消費者からのデータ取得の例

消費者からデータを取得する例として、「DNA情報から病気のリスクを調べる」といった場合を考えてみます。
従来のやり方では、消費者から取得したデータを分析するために、事業者側で一度復号化する必要があり、復号化したデータに対する外部からの攻撃や情報漏洩のリスクは避けられないものでした。また、DNA情報のような機微な情報については、プライバシー観点の懸念から、消費者からのデータ取得の同意が得られにくい、というサービスとして根本的な課題も存在します。

引用:株式会社ZenmuTech プロダクト:秘匿計算

 

秘密計算を活用すると、事業者側で病気リスクを判定する処理も、データを暗号化したまま実施できるため、情報漏洩のリスクが無くなります。また、事業者にもデータを知られることなく分析結果を取得することができるため、消費者からデータ取得の同意が得られやすくなるでしょう。

引用:株式会社ZenmuTech プロダクト:秘匿計算

 

2.企業間データ連携の例

もう一つの例として、企業間でデータを共有し、掛け合わせて分析するケースを考えてみましょう。
各企業が持つ性質の異なるデータを掛け合わせれば、新たな価値を生み出せる可能性は高まりますが、そこにも大きな壁があります。データという特性上、一度共有してしまうと、共有したデータを取り返す(取り消す)ことはできません。

  • 共有したデータが共有先で当初の想定とは違う使われ方をされてしまう危険性はないか
  • 共有したデータが共有先企業から、さらなる別企業に流出してしまう危険性はないか
  • そもそも企業のデータは企業の資産。簡単に他企業に共有してしまってよいのか

などの懸念から、企業間のデータ共有もなかなか進まず、結果、各企業が自社のデータを囲い込んでしまいます。多種多様なデータが、様々な企業に分散して蓄積されているのに、全体としてうまく有効活用できていないと言えるでしょう。


このようなケースでも、秘密計算を活用すると、お互いの企業が保持するデータを明かすことなく、それぞれのデータを掛け合わせて分析結果を取得することができるようになります。企業間で足りないデータを補い合うことができ、より高度なサービスの提供につながっていくでしょう。


このように、秘密計算を使えば、データの取得・流通が促進でき、これまで一企業が保持するデータだけではできなかった分析が可能になります。

まとめ

本記事では、秘密計算の概要を紹介しました。秘密計算は、「データを暗号化したまま計算するプライバシー保護技術」です。この技術を利用すれば、データを暗号化したまま分析したりかけ合わせたりすることが可能になり、これまであまり実施されてこなかった消費者や企業の間のデータの流通を促進し、新たな価値を生み出すことができます。我々は、この秘密計算が世の中のデータ活用に大きなブレイクスルーを起こすと考えており、この技術の社会実装・事業化に向けて継続的活動しています。

<本記事に関するお問い合わせ>

NRIデジタル株式会社 担当 安増・中島・西原・板橋 mpc@nri-digital.jp