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D2C 時代の EC ソリューションの特徴と進化のトレンド

EC ソリューションの特徴

D2C ビジネスの拡大により EC サイト・ネットショップを構築する流れは大きく拡大しています。前回の記事(デジタルトランスフォーメーション(DX)時代にとるべき EC 事業戦略とは)にてお伝えした通り、ここ数年のトレンドはパッケージのように大規模システムにも対応でき、カートASPのような定期的な機能追加などの柔軟性も併せ持つ「SaaS」と呼ばれるジャンルに移り変わってきています。本記事では改めて各種 EC ソリューションの特徴に触れながら、それぞれの利点や欠点をご紹介します。

ECモール・ネットショップ

手軽に、すぐにお店を開設する場合は amazon や楽天、若い世代の利用者が急増しているメルカリ等の「EC モール」へ出店する方法があります。また、BASE、STORES などの「ネットショップ」サービスを利用して自社ブランドを立ち上げることも出来ます。

これらのサービスでは IT 開発を行わずに EC ビジネスをスタート出来るメリットがあります。ただし、「サービス購入時に予約や抽選を挟みたい」「お店のポイントカードと連携したい」といったオリジナルの要望には応えにくい点がデメリットです。またバックオフィス業務をカスタマイズ出来ない場合がありますので、ビジネス規模が拡大し、業務が複雑になってきた際に事業のボトルネックになるケースがあります。

スクラッチ開発

ビジネス規模が大きく、業務の複雑度が高い場合にはフルスクラッチでの EC サイト開発が行われます。会計や物流の基幹システムとの連携や、既存の業務フローをシステムに反映する等に取り入れられます。

パッケージシステムやサービス等を使わず、1から設計・開発をしていくため、技術者を長期間に渡り確保する体制を組む必要があります。EC サイトでは、クレジットカードの情報や、個人情報を扱うため、慎重に堅牢なシステムの設計が求められます。自社で1から決済システムを構築するには相当の費用と期間が必要です。そのため、決済代行サービス(GMO Payment Gateway / ペイジェント)を導入することで初期の開発スコープを絞ることが出来るでしょう。また、個人情報の観点ではユーザーのログイン・ログアウト機能は Amazon Web Service の Cognito 等の認証認可サービスを利用することを検討してみてはいかがでしょうか。

EC ビジネスにおいてユーザー体験は重要です。消費者のトレンドに合わせて UI/UX を迅速に変化させ対応していく開発スピードが重視されます。攻めと守り双方の観点で EC サイトを開発・運用していくべきでしょう。

パッケージ・オープンソース・カート ASP

ネットショップでは不十分である、しかしフルスクラッチ程の予算を掛けられない。攻めと守りの双方の観点を実現するのがパッケージ、オープンソース、カート ASP の特徴です。これらに共通していることは「EC サイトの基本機能が備わっていること」「カスタマイズの余地があること」です。多くの EC ビジネス要件(注文管理・商品管理・顧客管理)は基本機能で満たし、追加機能をカスタマイズしていくことが可能です。EC 事業者はシステムの開発ではなくビジネスに注力していくことが出来ます。

SaaS への進化

各ソリューションは各々の課題を解決するために「SaaS」と呼ばれるジャンルへと進化をしています。

パッケージ

EC 機能を有料のパッケージ製品として販売しているもので ecbeing や ebisumart 等のソリューションがあります。セキュリティを堅牢にしており、導入、マーケティングを含めたサポートを行っている企業もあります。大手のパッケージになるほど柔軟なカスタマイズが可能になりますが ASP に比べると高額な傾向にあります。自社のサーバーで運用出来るためクラウドを利用出来ない企業へ導入出来ます。しかし、導入以降のバージョンアップ対応の問題を解決するために、近年では SaaS 型 EC パッケージも提供を開始しています。

ecbeing

EC パッケージ製品の中でシェア No.1 のソフトウェアです。B to B、B to C、ショッピングモール等に対応したパッケージ製品があります。B to C パッケージをベースにしたクラウドサービス「メルカート」も提供しています。

パッケージ製品のためソースコードは開示されていません。利用者はパッケージをベースにカスタマイズしサイトを構築していくことになります。多くの追加カスタマイズ要望を実現することが可能で、カスタマイズ方法の提案・サポートを受けることも可能です。年商が1億円以上の EC サイトを対象としたパッケージ製品です。

オープンソース

オープンソース(以下 OSS)とはソースコードを商用、非商用の目的を問わず利用、修正、頒布することを許し、それを利用する個人や団体の努力や利益を遮ることがないソフトウェア開発の手法のことです。EC-Cube や Magento 等が代表的です。公開されているソースコードを元に機能追加で開発することが可能です。自社でサーバーを用意し、その上に EC サイトを立ち上げます。OSS 本体のバージョンが上がった際には開発者が改めてバージョンアップ対応をする必要があります。自社にて EC サイトやインフラの構築・保守などを行える場合は比較的安価に開発することが出来ますが、外部の制作会社に依頼する場合は別途費用が掛かります。

EC-CUBE

EC-CUBE は国内でシェアの大きい EC サイト開発用の OSS です。バージョン4系では PHP の Symfony フレームワーク、ORM の Doctrine を主軸に作られています。OSS ならではの拡張性・価格が魅力です。メジャーなフレームワーク・言語で記述されていることや日本の商習慣に対応していること、日本語での開発ドキュメント・開発者フォーラムが豊富であるため、多くの EC サイトに用いられています。老舗の EC-CUBE ですが4系や SaaS 型の ec-cube.co をリリースし、まだまだ進化が続いています。

カートASP

カート ASP (Application Service Provider) は従来型のパッケージや OSS と異なり EC サービスに加えてサーバーインフラも提供しています。自社のサーバーに構築する必要がなければ、ASP を採用した方がインフラの保守やメンテナンスに掛かるコストを抑えることができます。Future Shop、Make Shop、Shopify 等が代表的です。

パッケージ製品や OSS ではアップデートは自社で行う必要がありますが、ASP では ASP 提供側がアップデートを行ってくれます。常に新しい機能やサービスを受けることが可能です。以前は「ASP=カスタマイズが出来ない」と敬遠されていましたが、SaaS 化により自由にカスタマイズ出来るように進化しています。

Shopify

聞き慣れない方も多いかと思いますが、Shopify はカナダ発の大手 EC プラットフォームです。2017年に日本に進出し、2020年1月には日本経済新聞で「アマゾンキラー、ショピファイ 世界で100万社超導入」として紹介されています。

Shopify Japan 提供資料より引用

日本国内に参入したのは2017年であり、管理画面などが日本語化され、徐々に国内での導入実績が増えてきています。現時点では ecbeing や EC-Cube のように日本の商習慣に合わせた機能やドキュメントは比較的少ないですが、Shopify パートナーによる拡張機能(Shopify では「アプリ」と呼称します)やデザインテンプレート(「テーマ」と呼称します)が今後1~2年の間に増加していくことが見込まれています。

Shopify は拡張性・カスタマイズ性に優れたカート ASP です。アプリやテーマを導入することで EC ビジネスの要望に柔軟に応えることが出来るのも人気の理由です。次回以降に Shopify の詳細をお伝えする予定ですが、一部ご紹介します。

Shopify Japan 提供資料より引用

Shopify はマルチチャネル・拡張性・デザインという攻めの観点、バックオフィス効率化・堅牢なインフラという守りの観点の双方をバランス良く備えていることが特徴です。小規模なビジネスから開始して大規模なビジネスまで成長を共に出来るプラットフォームであることが世界で採用されている要因なのかもしれません。

これからの D2C 時代に

本記事では昨今の EC ソリューションの特徴と進化のトレンドについてお伝えしました。次回以降は EC を支える技術、最近日本で流行りだした EC 業界の WordPress と言われる Shopify について更に深掘っていきます。

<本記事に関するお問い合わせ>
NRIデジタル株式会社 担当 吉田・倉澤・萩村 and Developers 
marketing-analytics-team@nri-digital.jp