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第5回不動産DXセミナーを開催 ~「スマートシティの現実解」~

野村総合研究所(NRI)およびNRIデジタルは、「スマートシティの現実解」をテーマに2023年2月に「第5回 不動産業界におけるデジタルトランスフォーメーションセミナー(不動産DXセミナー)」(ウェビナー形式)を開催しました。

スマートシティの実現に向けたマネタイズやシステム導入・実装の考え方などについて議論がなされた、前回のセミナー(2021年3月開催)から2年。
現在は、国内各所の開発プロジェクトがまちびらきの時期を迎えつつあり、スマートシティを事業として運営していく上でのさまざまな課題が現実のものとなり始めています。
そこで今回のセミナーの前半では、スマートシティの運営フェーズを見据え、NRIグループの多彩な専門家が、事業の持続可能性や、まちの価値向上を図る上でのデジタル活用の考え方について提言しました。
後半では、不動産デベロッパーから招いた3名による、パネルディスカッションを実施しました。合計3時間と長丁場のセミナーでしたが、不動産デベロッパー・ゼネコン・電機メーカーなどさまざまな業界の顧客約300名からエントリーがあり、盛況のうちにセミナーを終えることができました。

まずは、前半で行われた各講演の概要をご紹介します。

スマートシティ事業でボトルネックとなるマネタイズ

デジタルコストの削減と、具体的な事業におけるマネタイズの道筋構築がキーポイント

(NRIコンサルティング事業本部 大道 亮)

NRIコンサルティング事業本部の大道亮は、「スマートシティを事業として持続可能とするための現実解」と題して、民間企業型スマートシティについて、可能性が感じられるマネタイズの道筋構築案を述べました。

まず大道は、スマートシティはマネタイズが最大のボトルネックとなり、いまだにブレイクスルーできずにいると主張します。スマートシティ化には明示的なコストがかかりますが、将来的な物件価値向上への寄与を証明しきれないことが、その理由の1つです。
そこで、マネタイズの壁を乗り越えるためには、2つの問いに解を示せるようになることがポイントであると説明します。
1つは、「デジタルコストを極力低減できるか?」です。そのためには、案件ごとにスマートシティ化投資を行うのではなく、会社ごと、もしくは業界横断的に投資をかけていく発想が必要だと主張しました。
もう1つは、「具体的な事業でマネタイズの道筋を描けるか?」です。これからは、新たな不動産ビジネスのあり方として、来街者訴求型からの派生ビジネスをいかに描くかが重要となります。そこで、to C接点を活用して職域経済圏を構築することもマネタイズの道筋の1つになりうると説明しました。
最後に、大道は新しい都市の顧客体験を提供するワンストッププラットフォームとして、NRIのスマートシティサービスを紹介し、講演を終了しました。

データサイエンスさえ導入すれば、必ず期待通りの効果が出るわけではない

データサイエンス導入にあたって、ビジネス側の担当者に求められる3つの役割がある

(NRIコンサルティング事業本部 御前 汐莉)

NRIコンサルティング事業本部の御前汐莉は、「データサイエンスをスマートシティに活かす際の要点とは」と題して、データサイエンスを活用したスマートシティを構築していく上で、ビジネス担当者に期待される3つの役割を述べました。

まず御前は、スマートシティ事業を今後推進するにあたり、「取得したデータをどのように活用し、どのようにまちの運営・管理に反映するのか?」を検討していく必要が出てくると主張します。そして、データサイエンスを活用したスマートシティ事業を成功させるために、ビジネス側の担当者は、以下の3つを意識すべきだと説明しました。

  1. データサイエンス部隊の検討の下地を整えること
    ビジネス担当者としての「解きたい課題」と「目指す状態」を固めておくことが検討の大前提
  2. データサイエンス部隊に必要なインプットを提供すること
    「改善余地のあるポイント」と「現場のルールとその優先度」がデータサイエンス部隊の動き出しに必要
  3. データサイエンス部隊のアウトプットをチェックすること
    分析結果はあくまで理論的な結果であり、「効果の妥当性」「運用面の実現可能性」「ユーザの快適性」の観点でチェックが必須
  4. 本講演を通して御前は、ビジネス担当者の働きがあってはじめて、データサイエンスの価値が発揮できることを主張しました。

    スマートシティは、「スマートに市民を幸せにする」ことを目指すべき

    バーチャル世界に倣い、「ユーザニーズの高速検証サイクル」をリアル都市でも実現してはどうか

    (NRIシステムコンサルティング事業本部 丹下 雄太)

    NRIシステムコンサルティング事業本部の丹下雄太は、「バーチャル世界から学ぶ、理想都市と現実」と題して、バーチャル世界に倣い、ユーザニーズの高速検証サイクルをリアル都市でも実現し、市民共創型の運営を行うべきであると述べました。

    まず丹下は、スマートシティは最終的に、スマートに市民を幸せに出来る姿を目指すべきであると主張します。そして、その姿を実現するためのヒントが、fortniteやrobloxといったバーチャル世界にあるといいます。バーチャル世界では、ユーザからのニーズ・意見を収集し、それを都市に反映させるサイクルを高速に回すことで、都市づくりへのユーザの積極的な参加を実現しています。このユーザニーズの高速検証サイクルをリアル都市でも実現し、市民共創型の運営を行うべきであると述べました。
    しかし、その仕組みは模倣できても、中々機能しづらいという問題が出てきます。
    そこでカギとなるのが、地道な信頼の積上げと、演出による動機設計です。まずは欲張らず、小さく確実なところから着手し、意識の高い市民を参加させます。そこから段階的に、市民全員を巻き込んでいくことを目指していくべきだと説明しました。加えて、市民に継続的な参加を促すことも必要です。そのために、都市づくりにおいて、自身の意見が反映されている実感、参加している実感を市民に提供できるような工夫を施すことも必要だと述べました。

    スマートシティの実現には、ユーザが利用できる都市アプリケーションが必要

    開発のポイントは、独自のサービス・データを活用した顧客接点構築と継続的に運営・拡大していくための体制構築

    (NRIデジタル DX企画 吉田 純一)

    NRIデジタル DX企画の吉田純一は、「都市アプリケーションで実現するスマートシティ」と題して、都市アプリケーションの開発事例を4つ紹介しながら、都市アプリケーションを開発する上でのポイントを2つ述べました。

    まず吉田は、スマートシティの実現には都市OSだけでなく、ユーザが利用できる都市アプリケーションが必要と主張します。
    都市アプリケーションとは、都市のデータや、都市のハードウェアと連携するアプリケーションのことを指します。そして、ミニマルな都市アプリケーションであれば、スマートシティの開発をせずとも、後付け出来るIoTデバイス、アプリ利用者の行動データ・外部データを活用することで、構築することができると説明しました。ミニマルな都市アプリケーションは、既存の街区やビルでも構築できるほか、スマートシティ開発のための事前検証としても活用できます。そこで、NRIデジタルが提供している都市アプリケーション構築のためのツールキットを4つ紹介しました。
    そして、その事例を踏まえ、都市アプリケーションを開発する上で重要な2つのポイントを説明します。1つは、独自のサービス・データを活用した接点をつくり、独自のデータ・知見を獲得することです。そしてもう1つは、アプリの機能だけでなく、継続的に運営・拡大するための体制を構築することであると説明しました。

    セミナーの後半では、スマートシティの開発・事業を担当されている不動産デベロッパーの3名をお招きし、パネルディスカッションを実施しました。スマートシティの開発・事業を現場の最前線で担当しているからこその課題を共有いただいた上で、スマートシティ事業との向き合い方について、熱い議論を展開いただきました。
    ここからは、具体的なディスカッションの様子をお届けします。

    スマートシティ・ビルの事業を担うトップランナーに
    「スマートビル・シティ」×「デジタル」の課題と解決策を問う

    (左から、NRIシステムコンサルティング事業本部 栗山 勝宏(モデレーター)
    東急不動産株式会社 都市事業ユニット 都市事業本部 スマートシティ推進室 室⾧ 田中 敦典氏
    日本郵政不動産株式会社 DX 推進部 執行役員 部⾧ 脇坂 隆則氏
    三菱地所株式会社 関西支店うめきた開発推進室 副室⾧ 神林 祐一氏)

    まずはNRIシステムコンサルティング事業本部の栗山勝宏から、パネリスト3名に、「スマートシティ・ビル事業を行っている中での課題・最も苦労していること」についての質問が投げかけられました。それに対する回答の1つに、「そもそもスマートシティという言葉の解釈が、人によって異なる」という意見が出ます。スマートシティを作っていくためには、関係者の中でそのイメージをすり合わせるところから始めなければならず、そこに難しさがあると説明しました。それ以外にも、「スマートシティを提供して得られる価値は、直接的に利益として反映されてこないため、収支計画の組み立てが難しい」といった意見や、「物件ごとに提供できる価値を考え、機能を搭載していくのではなく、物件単位の機能の標準化・共通化が必要になってくる」といった意見も挙がりました。
    挙がった課題を踏まえ、具体的な課題の解決策についてディスカッションに移ります。
    大道の講演で取り上げたスマートシティのマネタイズと物件単位の機能の標準化・共通化に焦点をあて、パネリスト3名が講じてきた解決策や模索している解決策について述べていただきました。
    その後、セミナー参加者からも質問を募集し、「竹芝に設置されている1400個のセンサーをどのように管理しているのか?」という質問に対して、東急不動産株式会社 都市事業ユニット 都市事業本部 スマートシティ推進室 室⾧ 田中敦典氏にご回答いただきました。
    そして最後は、スマートシティの今後の展望について、3名から熱い思いが共有されます。
    三菱地所株式会社 関西支店うめきた開発推進室 副室⾧ 神林祐一氏は、「うめきたエリアにおいて、挑戦の志を忘れずに、いろいろな人が関わってもらえるようなまちづくりをしていきたい」と語りました。続いて、日本郵政不動産株式会社 DX 推進部 執行役員 部⾧ 脇坂隆則氏は、「順次ビルが竣工していく予定であり、それらのビルから大量のデータを収集、利活用したビジネスを展開していきたい」と語ります。田中氏からは、「竹芝エリアは海に面しているので、今後はベイエリアに進出していきたい」との言葉を頂き、パネルディスカッションは終了しました。

    今回初の試みとなったパネルディスカッションですが、セミナー参加者からは「スマートシティ・ビルの事業を担うトップランナーの生の声を聞けて良かった」、「次回もぜひ、別のテーマでディスカッションして欲しい」と好評をいただいています。
    我々の暮らしは、今後どのように豊かになっていくのか?
    これからの各社の取り組みに、引き続き注目していきたいと思います。

     

    お問い合わせ(運営事務局)

    「第5回不動産DXセミナー」
    事務局 E-mail:re-dx@nri.co.jp

     


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