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マーケティングDX検討の第一歩:商材の特徴を捉える分類方法とマーケティング活動の組み立てのご紹介

平野 学

近年、非常に多くのお客さまが、マーケティングのDX、すなわちデジタルマーケティングの手法を採り入れたマーケティングプロセスの変革にチャレンジされています。

一方で、デジタルマーケティングをなんとなく始めてみたものの「思うように成果が出ない」「これで本当によいのかわからない」というお客さまが多いのではないでしょうか。
また「そもそも何から始めればよいのか」「何を目指せばよいのか」というご相談をいただくことも数多くあります。

デジタルマーケティングの手法は多岐にわたるため、自社のビジネスに沿って、何を実現するのか、何に取り組むのかを検討することが重要です。
ですが一方で、自社の商材の特徴を適切にとらえながら、適した取り組みを検討していくことは難しい活動となるでしょう。

そこで今回は、マーケティングのDX化を考えるうえで重要な“自社の商材の特徴を捉える分類方法”と、その分類ごとに、デジタルマーケティング活動で目指すべき方向性についてご紹介します。

目次

  1. マーケティングDXを検討するうえでのポイント
  2. デジタルマーケティングのアプローチを考えるための、商材特徴を捉えるポイント
  3. 商材分析の2つの観点
  4. 商材の分類別マーケティングDXのアプローチ
  5. 最後に

マーケティングDXを検討するうえでのポイント

そもそもデジタルマーケティングとは、非常に幅広い概念を内包しています。
例えば、毎週メールマガジンを送ることやWebセミナーの開催、Web広告の出稿といった活動が、よくイメージされる初歩のデジタルマーケティングの手法です。
また上記以外にも、オウンドメディアを立ち上げてユーザーとのコンタクトポイントを強化したり、お客さまデータの活用のためにCRMシステムを再構築したりするなど、さまざまな取り組みが考えられます。

いきなりこれらすべての施策を実施するのは不可能ですし、やみくもに取り組んでもなかなか成果が上がらず、疲弊してしまうだけになってしまうでしょう。
マーケティングDXを推進する際には、自社の商材の特徴を適切に捉え、適したデジタルマーケティングのゴール設定を行うことが大切です。

デジタルマーケティングのアプローチを考えるための、商材特徴を捉えるポイント

商材の特徴を捉えるポイントについて、一般的によく使われる切り口が「BtoB」と「BtoC」です。
「BtoB」は「Business to Business」の略で、企業間の取引を指します。
「BtoC」は「Business to Consumer」の略で、企業と消費者の間の取引を指します。
特に、意思決定や購買のプロセスにおいて、これらの特徴の違いは大きな意味を持つでしょう。
例えばBtoB取引の大きな特徴として、「あらかじめ予算が決まっているケースが多い」「選定する人と意思決定する人が異なる」「費用対効果が重視される」といった点があり、これらはマーケティングを考えるうえで抑えておくべきポイントになります。
※ただし、これらの特長は、BtoCでも商材によっては当てはまります。例えば保険商品は、費用対効果が重視されるでしょうし、子供向けサービスでは、子供が選んで親がお金を払う、ということも多いでしょう。
そのため、自社の商材をこの2パターンで区分して検討されるお客さまも多くおられます。お客さまからも、「自社のようなBtoBの商材でデジタルマーケティングはどう考えればよいですか?」という質問をいただくこともあります。

ですが、「マーケティングの特徴」という視点で考える際には、同じBtoBの商材においても、工場で使われるような1つ数千万円する機械と、オフィスで使われる消耗資材のマーケティング手法は決して同じではありません。
そのため、マーケティング施策を考えるうえでは、これとは違う切り口も踏まえて特徴を捉える必要があります。
そこで、商材の特徴を、検討プロセス上の2つの観点で捉える分類方法をご紹介します。
このマトリクスを使うことによって、商材の特徴をより正確に捉えることができ、加えて、マーケティングのDXで目指すべき方向感を検討するヒントを得られるでしょう。

商材分析の2つの観点

マーケティングのDXを検討する際には、対象とする商材について、2つのポイントで特徴を捉えることが重要です。
それぞれの内容について、解説します。

観点1:購入検討にユーザーはどのぐらいの労力を割くか?

商材の特徴を捉えるうえで重要な1つ目の軸は、商材そのものの特徴として「ユーザーがどの程度、購入検討を慎重に行うのか」という観点です。

商品の単価が高いタイプの商材は、その分だけユーザーは購入検討に慎重になり、また購入頻度も低いため、ユーザー側が「購入に慣れていない」という特徴があります。
例えば、BtoCの場合は自動車や住宅、保険商品、BtoBであれば、産業機器やSaaSサービスなどの商材が挙げられるでしょう。

このように購入頻度が低く、購入単価が高いものを一般的に「高関与商材」と呼びます。
一方、購入頻度が高く、購入単価が低いものが「低関与商材」です。

ひとつめに重要な観点は、この「高関与商材」か「低関与商材」かどうか、です。

観点2:ユーザーは検討から利用までをオンラインだけで完結できるか?

もう1つの重要な軸が、ユーザーの検討から利用までのプロセスの特徴です。
すなわち、商品を購入し利用する際に、オンライン上だけで完結することが可能か、または、商品を選ぶときや利用するときに対面で何かを行う必要があるか、という観点です。

これは、購入前に商品を確認するタイミングだけでなく、そもそもの体験自体が付加価値になる、またはサービス利用の前提になるもの、すなわち、実体を伴わない、無形商材もここに含まれます。例えば、ソフトウェアサービスなどがこれに該当します。
重要なポイントとして、「マーケティング活動として、どのように売っていきたいか」を重視して判断するという点に留意が必要です。
例えば、同じ「食品」という商材の中でも、生鮮野菜などは鮮度の確認のために現物を見たいお客さまが多いでしょうし、他方、現物よりも、その「効果」や「お客さまの声」等が重要な健康食品はWeb販売のほうが向いているケースも存在します。いずれにせよ、「現物を見せることで競争優位性を発揮できるか?」という観点で判断することが重要です。

これらをまとめると、下図のようなマトリクスによって表現できます。

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なお、このマトリクスに沿って商材の特性を考える際には、あくまでもマーケティング活動を行う単位で、これらの分類を検討するという点がポイントです。 例えばBtoBの設備メーカーにおいては、メインの売り物である設備本体に加え、これを利用するためのソフトウェアやメンテナンスサービス、消耗部材などを取り揃えていることが多いでしょう。
これらの商材については、同じ事業ドメインだった場合でも、別の商材としてマーケティング戦略を検討するほうが望ましいでしょう。

商材の分類別マーケティングDXのアプローチ

ここからは、セグメントごとの、マーケティングDXのアプローチをご紹介します。

A.「高関与」×「対面接点が必要なもの」

このセグメントは商材の購入サイクルが長いため、潜在顧客が非常に多く存在していることが特徴です。
よって、その関係継続や見込み顧客の発掘に労力を要することが見込まれるでしょう。
またこれに加え、ユーザーは対面での確認も含めて、非常に長い検討プロセスをたどることが想定されます。

そのため、この領域においては「見込み客と低負荷に接点を構築・維持するためのマーケティングプラットフォーム」、すなわちオウンドメディアサイトを構築するアプローチが考えられます。
このプラットフォーム上での行動をもとに、見込み客を検知し、営業機会を作り出すことが、目指すべき姿といえます。

また加えて、ユーザーは複数の顧客接点にまたがって検討を進めるため、すべてのコンタクトポイントにおけるデータを、顧客単位で統合することが重要です。
いまだ多くの会社において、Webや対面の営業、イベントで得られた連絡先や名刺などの情報が、紐づけられずに管理されているケースが散見されます。
これらを統合して、顧客情報を可視化するだけでも、多くの発見があるでしょう。

B.「高関与」×「Web完結が可能なもの」

こちらのセグメントで重要なことは「いかにWebで完結させるか」を考えることです。
Webで完結させられることで、ユーザーが自分のペースで購入検討を進めることができる、また販売にかかるコストを抑制できる、といったベネフィットが想定されます。
また加えて、商品の販売をWebに集約することによって、データ蓄積の効率化などの効果も期待できます。
そのため、ユーザーがセルフで検討を進めるための情報や機能を、Webに整備しておくことが大切です。
例えば、検討のためのシミュレーションや口コミ・事例の情報、お試しや体験プランといった、自社の商材をユーザーが購入するうえで必要となるサポートを、Web上に用意することが重要なアプローチといえます。
また、購買プロセスが長い商材であるため、Web上のデータを活用したパーソナライズ提案や、購入検討客のために、情報を集約して保存しておくマイページの整備も重要な取り組みだといえます。

C.「低関与」×「対面接点が必要なもの」

低関与商材は「早く楽に決めたい・使いたい」というニーズが強い傾向があります。
そのため、オンラインからオフラインにまたがったユーザー体験全体を見渡し、購入から利用までをシームレスに設計することが重要です。
すなわち、OMO(Online Merges with Offline)のアプローチをうまく取り入れ、適切に選定~購買~利用までのフローを設定する必要があります。
例えば、オフラインで利用・体験するタイプの商材では、Webでの予約時に発行されたコードを、そのまま対面接点でも簡単に使うことができる仕組みづくりなどが有効でしょう。
加えて、相対的に低価格な商材が多いため、ユーザーのリピート回数を増やすか、商材によってはクロスセルを行うことも重要です。

また顧客のデータを活用し、Webで手離れよくパーソナライズしながら、さまざまな商品を提案したり、リピート利用・購入を訴求したりすることも重要な取り組みだといえます。

D.「低関与」×「Web完結できるもの」

このセグメントはデジタルマーケティングと相性がよく、多くの企業で、Web広告の活用やECの整備など、特にBtoCを中心に取り組みが進んでいます。
ただしBtoBにおいては、まだ取り組みが進んでいない企業も多いのが現状です。
特に、これまでの既存ビジネス上の付き合いもあり、今まで営業担当者が対面で販売活動をしていたところから、突然「今後はWebで販売します」という変革は、一朝一夕には実現できないでしょう。
また、販売に、外部の商社やディーラーが関与するケースもあり、その存在も重要であることから、すべてをWeb販売にするのは難しいのも実情です。
こういった場合には、時間をかけてじっくり検討・実現していくことが重要ですが、それに加えて、「買い手にとってはどういう体験が最も幸せなのか」を改めてゼロベースから検討してみることもよいアプローチと言えるでしょう。

最後に

一口にマーケティングDXといっても、商材の特徴に応じてさまざまな取り組みが考えられます。
つまり、世の中に出ているようなツールをそのまま適用しても、全体としてうまくいかないケースが多く、まずは自社がデジタルマーケティングで成し遂げるべきゴールイメージを描き、これを経営戦略として検討していくことが重要です。
NRIデジタルでは、エンジニアメンバーだけでなく、ビジネスコンサルにも対応できるビジネスデザイナーがそろっており、上流の経営戦略の設計からお客さまをサポートいたします。