メタバース事例をヒントとしたリアルビジネスCX(カスタマーエクスペリエンス)改革
モノ売りからコト売りへビジネスがシフトし、CXそのものが企業競争力に直結する時代に突入しました。CXとは、カスタマーエクスペリエンスの略語で、機能・性能・価格といった「合理的な価値」だけにとどまらず、ワクワクする・安心できるといった「感情的な価値」を含んだサービスにかかわる全体験を指すものです。
近年、デジタル技術の普及により、商品の購買やサービスを利用する瞬間以外にも、顧客とつながり続けられるようになりました。また、メタバースの技術が発展したことによって、ゲームや物販、エンタメなどのリアルビジネスのCX改革に取り組む企業も増えています。
しかし、メタバースをリアルビジネスのCXに活用するべきだといわれても、何から手を付けたらよいのかわからない方も多いでしょう。
そこで今回は、”魅力的な”CXを提供するヒントにしてもらうために、メタバース上でのCX事例をご紹介します。貴社のビジネスをドライブするためのヒントになれば何よりです。
CXがビジネス競争力を左右する時代
現代では、モノ売りからコト売りへとビジネスの形態が変化しており、企業にとってのCX(顧客体験)の位置づけも変容しはじめています。
モノ売りビジネスにおけるCXは、モノを買ってもらうまでの”過程”が大切です。
そのため、「いかにわかりやすく・面倒なくモノを買ってもらうか?」という顧客が購入に至るまでのハードルをいかに取り除いていくかが重要な施策となります。
一方、コト売りビジネスとしてのCXは、顧客体験に「価値」があり、お金を払ってもらうための「商品」だといえます。「いかにCXで対価に見合った魅力を感じてもらうか」など、単なる簡便性にとどまらない価値の提供が必要です。
では、楽しさや充実感といった「簡便性にとどまらない価値を提供できるCX」は、具体的にはどのように構築するべきでしょうか。リアルビジネスからの視点を変え、仮想現実世界のメタバースから今後の取り組みへのヒントを得ていこうと思います。
メタバースの魅力と代表サービス
現状、メタバースに近いといわれるプラットフォームサービスの多くは、ゲーム企業が運営するものです。ゲーム企業はメタバースが注目されるかなり以前から「CXそのものを商材」にビジネスを展開し、多くのユーザを獲得してきた歴史があります。
ここ数年、リアルビジネスを展開しているビジネスプレーヤーが、プラットフォームを活用しCXを商品として施策展開している事例が増えてきています。
これはゲームを発祥として構築された「多くのユーザ数を抱えるチャネル」、および「魅力あるCXを構築する土壌」としての活用を見出していることにほかなりません。
ここでは、代表的なプラットフォームサービスの事例を2つご紹介します。
いずれも、ゲームを主軸としてユーザを獲得してきたサービスであり、ユーザはこれらのサービスを仮想空間の自分(アバター)を通じて利用し、リアルでは体験できないCX(顧客体験)を手に入れている点が特徴です。
Fortnite
Fortnite(フォートナイト)とは、Epic Gamesが提供するオンラインでほかのプレーヤーと協力したり対戦したりする、TPS(Third Person Shooter)というジャンルのゲームです。
総ユーザ数が4億人以上(2021年/5月)、平均滞在時間は1時間以上/日(2020年)ということで、同社の時価総額は315億ドル以上(2022年/4月)にのぼります。
Fortniteはゲームだけにとどまらず、有名人がライブを開催したり、アパレルを含む多数の企業が参画したりするなど、さまざまな用途で活用されるプラットフォームへと成長しました。
さらに、ユーザとの共創や独自の経済ルールが構築されるなど、もっともメタバースに近いサービスといわれています。
数値出所元)
IGN(https://www.ign.com/articles/fortnite-made-9-billion-in-two-years-while-epic-games-store-has-yet-to-turn-a-profit)
Statista (https://www.statista.com/statistics/882113/time-spent-playing-fortnite/)
Roblox
Roblox(ロブロックス)は、自分でゲームを制作したり、ほかのユーザが制作したゲームをプレイしたりできるRoblox Corporationが提供する「バーチャルユニバース」と呼ばれるサービスです。
総ユーザ数が2億人以上(2021年/4月)、平均滞在時間は2.6時間以上/日(2020年/9月)で、かつ13歳未満のユーザが54%であるため「次世代の砂場」や、その高い収益性から「ゲーム版YouTube」とも呼ばれています。
ユーザ制作ゲーム公開プラットフォームから一般企業の参画、教育現場での活用など、多用途化している点がRobloxの特徴です。
なお、同社の企業時価総額は195億ドル以上(2022年/1月)といわれています。
数値出所元)
backlinko(https://backlinko.com/roblox-users)
dealroom.co(https://app.dealroom.co/companies/roblox_corporation)
メタバース上での”魅力的な”CX事例
前述したプラットフォームサービスを例に、ここではメタバース上における”魅力的な”CX事例をご紹介します。
1.「自由設計型CX」の事例
メタバースの本質は、あらゆる物理制約から解放され、リアル世界では提供できない「理想的なCX」を実現できる点です。
ここでは、実際にリアル世界でビジネスを行う企業が、メタバース上でリアル世界では提供できないCXを提供している事例をご紹介します。
NIKELAND on Roblox
前述したRobloxは、ほかのユーザが作ったワールドへ遊びに行けるという特長を活かし、スポーツブランドのNikeとコラボした「NIKELAND」を開設しました。
NIKELANDの中では、以下のようなことが実現できます。
- Nike本社をイメージした場所で、ゲーム(鬼ごっこやドッジボールなど)ができる
- ユーザ自身でゲームを作ることもできる
- リアルで販売されているNikeの服や靴をアバターに着せられる
- スマホなどの動きをゲームに反映できる
NIKELANDはRobloxのユーザであれば誰でも利用できるため、アクセスの壁を取り除くことにより、スポーツへの参加ハードルを取り除くことに貢献しています。
自由設計型CXを提供することにより企業は、リアル世界の制約下では差別化が難しい商品・サービスについても、独自性・競争優位性を確立することが可能です。
ディズニー
ディズニーも、メタバースに本格参入する動きが見られ、メタバース戦略の責任者を選出しました。
また「バーチャルワールド・シミュレーター」と呼ばれる、新技術の特許も取得しています。
テーマパークでバーチャル効果を活用した演出を実施することにより、物理とデジタルの垣根が消滅し、ディズニーの世界観が新しいCXとして提供されることでしょう。
出所元)
XR CLOUD(https://xrcloud.jp/blog/articles/business/664/)
2.「ユーザ共創型CX」の事例
メタバース世界上において、ユーザは提供されているコンテンツを体験するだけではなく、ユーザ自身でメタバースの世界観を作ることもできます。
例えば、市民権を得たユーザが投票して街を作ることや、アンケート結果を街づくりに反映できたりすることは、ユーザ共創型CXの代表的な事例といえるでしょう。
Fortniteでは、その世界の街中に、投票ボードと呼ばれるものが設置されています。
ユーザは一定のコストを支払い、街の政策のいずれかに投票を行うことが可能です。
この事例において、街に存在する2つの「アイテム」のうち、どちらを残すべきか、市民に選んでもらう投票を行っています。
投票すると「投票してくれてありがとう」という形で、ちょっとしたアイテムがインセンティブとしてもらえ、得票数の多かった案が街に反映される点が特徴です。
このように、Fortniteではユーザの市民投票をまちづくりに反映する施策が頻繁に行われています。
また、Robloxでは「Roblox Studio」と呼ばれる開発ツールを活用することにより、ユーザが都市を直接創造・編集することが可能です。
さらに、ユーザ共創型CXを提供することによって、企業側もメリットを得られます。
例えば、ユーザの力を借りてユーザが望むCXを提供し続けられるため、企業努力に依存せず自律的に提供価値を増大させることが可能です。
また、ユーザ自身が単なるプレーヤーからサービスの運営者の一員になることによって、帰属意識が高まります。
その結果「自分たちのサービスであるという」意識が芽生えることも大きなメリットです。
3.「経済連動型CX」の事例
メタバース上の世界では「対価としてお金は得られない」と思われている点があります。
しかし実際には、コンテンツ制作などの対価として、仮想通貨(現金に換金可能)などのお金を稼ぐこともできます。
例えばFortniteでは、ファン(サポーター)の支払いの一部を獲得できるプラットフォームが構築されています。
特定ユーザ(クリエイター)がFortnite内外での活動(Fortnite内のワールド制作、攻略・コーチング、イベントの開催、最新情報の発信、プレイ動画の公開、など)することに対し、フォローしたユーザ(プレーヤー)が仮想通貨を消費することにより、その売上の一部を現金として獲得することが可能です。(2023/2時点の情報)
一方、Robloxにおいても、ユーザが制作したコンテンツによる売上の一部を、獲得できるプラットフォームが構築されています。
売上の一部は仮想通貨として支払われ、現金へ換金もできます。
また、今後は広告収益モデルも実装予定だそうです。
経済連動型CXを提供することによって、企業はさまざまなメリットを得られます。
例えば、ユーザの稼ぎの一部を手数料として徴収するなど、サービスにおけるマネタイズ方法の選択の幅が広がる点は大きなメリットです。
また、集客やブランディング、メンテナンス、コンテンツ拡充といった「楽しさ」だけでは担えない、ユーザによるサービス運営活動の代替も実現できます。
さらに、収益をモチベーションとしたユーザ集客や育成、利用維持につながる点もメリットだといえるでしょう。
今後価値あるCXを提供していくには
ここまで、メタバース上におけるCX事例についてご紹介してきました。しかし、リアルビジネスを行う企業にとって、「メタバースに参入すること」が必ずしも正しいわけではありません。もちろん、複数ある施策の選択肢の1つとしては考えられます。
本記事でお伝えしたいことは、企業が商品・サービスの競争力を高めるためには「バーチャル世界を教科書に、リアルビジネスのCXを見直す」ことが早道ではないか、ということです。前述した通り「魅力的なCX」の提供においては、バーチャル世界のほうが歴史も長く、先進的だといえます。リアルビジネスが「もの売りからコト売り」時代を迎え、CXそのものの体験価値などに顧客が対価を支払うようになってきています。
古くから純粋なCXを武器に戦ってきたバーチャル世界が、現在のリアルビジネスプレーヤーから見ると、これ以上ない「宝(知見)の山」になり得るでしょう。
顧客との中長期的な関係強化が重要
CXは、単純にサービス内容やUIを改善すればよいというわけではありません。企業として「顧客とどういった関係を構築するべきか」「そのためには何をしなければならないか」を考慮し、顧客の関係全体をデザインする必要があります。また、短期的な目標だけでなく、中長期にわたる関係構築・維持も意識する必要もあります。
自社の商品やサービスのファンになってもらうところまで考えて、ビジネスに変えられるかどうかが大事です。これまで、モノを作って、売るまでに注力していた企業は、メンテナンスやアップデートといった“作って売った後の“維持・改善活動の重要性が増してきます。収益の獲得方法・タイミングも含めて、顧客との長期的な関係全体をデザインしなおすことが重要です。
NRIデジタルとしてできること
CX全体の戦略策定から、CX企画・構築・運用まで幅広くご相談いただけます。
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