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空港ラウンジで実証実験したApp Clipサービス。導入後の成果とは!?

近年、iPhoneの新機能「App Clip(アップクリップ)」の導入を検討する施設や店舗が増えています。
App Clipを活用することで、ユーザーの利便性の向上はもちろん、提供側にとっても集客や自社アプリの登録数の増加といったさまざまなメリットが得られます。
App Clipはまだ搭載されて間もない機能のため、早めに開発・導入することで競合との差別化などにつながることもあるかもしれません。

本記事では、App Clipを開発、導入するうえで知っておくべき基礎知識とNRIデジタルによる導入事例をご紹介します。

App Clipとは

App ClipはiPhoneのOS(オペレーションシステム)である「iOS14」から搭載された新機能です。
App Clipはいわゆる「iOS独自のミニアプリ」で、通常のアプリのようにストアからのインストール操作することなく、アプリの一部を利用できる機能です。

従来であれば、店舗においてスマートフォンを用いた電子決済を行う際は、それぞれの決済アプリを事前にインストールの上で、クレジットカードなどの決済情報などを登録する必要があります。
一方、App Clipを使えば、店舗に設置されたNFCタグやQRコードを読み込むだけでApplePayによる支払いを短いステップで完了させることが可能です。
そのため発表当初から「従来の店舗決済のカタチを変える可能性がある」と注目されているのです。

主にApp Clipが活躍する場所

2022年8月現在、日本ではApp Clipの提供者はまだまだ少ないのが現状です。
ただ、NRIデジタルのように交通機関での実証実験を実施する企業があるほか、飲料メーカーでのポイントシステムやカフェなどでの活用も進んでいます。

一方、海外では台湾の「台北メトロ」や「有名観光施設」などにも導入された実績があり、飲食店やアパレルショップといった小売店のほか、大規模商業施設、空港や鉄道などの公共用交通機関での普及が期待できます。

NRIデジタルでのApp ClipのCXと使い方

NRIデジタルでは、2021年11〜12月にJAL空港ラウンジシステムにApp Clipを適用した実証実験を実施しました。

目的:ファーストクラスラウンジでのより快適なサービスの提供

コロナ禍において、空港ラウンジにおいても非対面の接客サービスが求められています。それに伴い、NRIデジタルではWEBベースでのJAL空港ラウンジシステムの開発、サービス提供を開始しました。ただし、お客さまの呼び出しを行うためには、メールアドレス等の情報を都度入力していただく必要があります。
メールアドレス等の情報入力を省略するために、ネイティブアプリにてOSの通知機能を利用することも考えられますが、空港という非日常のためにアプリをインストールしていただくことは、顧客負担が高く、ネガティブな印象を与えてしまいます。

さらに、空港ラウンジならではの課題は、以下が挙げられます。

  • 国際線空港という利用頻度の低い環境
  • 様々な国の利用者が多く、LINE やWeChat などの特定国で地位を獲得しているアプリは活用できない

このような状況を解決するために、インストール不要でOSを基盤とするミニアプリのApp Clipを活用することで、顧客体験(CX)と顧客満足度(CS)の向上、さらに上記のような課題解決の効果を実証するために実験を行いました。

実証実験におけるApp Clipの使用方法

羽田空港・成田空港国際線JALファーストクラスラウンジにおいて、「お食事注文サービス」と「シャワールーム予約サービス」の提供にApp Clipが活用されました。

  1. ラウンジのテーブルに貼付された二次元バーコードをiPhoneのカメラで読み取り
  2. App Clipが起動し、「開く」を選択する(カメラ・位置情報・通知を許可)
  3. 空港ラウンジアプリ「JAL Lounge+」が利用できる
  4. 食事は用意が整い次第、スタッフが座席に届ける
  5. シャワールームは準備ができ次第、スマートフォン通知機能で呼び出される

NRIデジタルでのApp Clip開発導入事例

JAL空港ラウンジシステムにおける2カ月間の実験の結果、モバイルオーダー利用者の半数以上がApp Clipを利用したことが明らかになりました。
空港ラウンジという様々な国の利用者が多い場所において、App Clip利用者が半数以上ということは、日本国内においてはよりApp clipの適用効果が得られると考えられます。
※世界的にはAndroid利用者のシェアが高いと言われている

同実験においては企画、適用業務検討、要件調整、導入支援および開発をNRIデジタルが行いました。

導入時に苦労したこと

App Clipの導入事例が他社を含めほとんどなく、本実験にて活用したかった通知機能がどのくらいの期間利用できるのか、WEBサイト用と同じ二次元バーコードの読取でApp Clipが起動できるのか、など不明瞭な段階からスタートしました。
また、テスト方法や配信方法の詳細や挙動などが分からないといった「情報不足」に悩まされることが多かったです。
さらに、ストア側に設定を入れたものの、端末によってApp Clipが適用されるタイミングが異なり、リリース確認に時間がかかるのも注意すべきポイントといえます。

導入してから気付いたこと

顧客体験(UX)の向上には非常に有効で、さらに導入事例が少ないからこそ利用者へのインパクトも大きく感じました。
ユーザーの利用フローが1本化されるので、現場スタッフの顧客フォローが減少し、導入時の混乱も最小限でスムーズという意見もありました。
利用できるアプリ機能は「10MB以下」であるため、利用シーンをよく考えた「取捨選択」が成果をあげるために重要なポイントです。

利用者の声

App Clipの利用者の声とネット上のリアクションをご紹介します。
「食事とシャワーはQRで読み取って注文しました。App Clipの活用は初体験でしたが便利でしたね。」
「アプリ無しは良いですね。でもiPhoneのみか・・・」

また、活用はしていないものの「試したい」といった声もネット上では散見されており、主にAppleユーザーや情報感度の高い人が注目している傾向が伺えました。

App Clipのメリット・デメリット

App Clipを導入する一般的なメリットとデメリットについて、NRIデジタルの実証実験の結果を踏まえてまとめました。
実際に導入を検討する際は、それぞれを比較しながら進める必要があるのでぜひチェックしてください。

ユーザーのメリット

ストアでアプリを検索・インストールする必要がないということが第一の特徴です。
また、App Clipのアプリはファイルサイズが10MB以下と、通常のアプリと比べると非常に軽量です。
使用してから30日後に自動的に端末から削除されるため、容量不足などに悩むユーザーにとっては使い勝手の良いアプリといえるでしょう。
また、Apple Payの設定を完了させれば、円滑に指定したクレジットカードや交通系ICで支払いもできます。

提供者のメリット

Siriからの提案でApp Clipを表示させ、さらにクーポンをユーザーに提示することが可能です。
店舗においてもNFCタグを使ってApp Clipを起動すれば、商品サイズ・色・店舗などの在庫などを確認し、オンライン、オフラインで購入を促すことができます。
このように集客やCVRのアップにつなげられるのが大きなメリットといえるでしょう。
また、App Clipによってレジ対応が迅速化できれば、キャッシュレス化の促進にも直結します。

ユーザーのデメリット

App Clipはアプリの全ての機能を使えるわけではありません。
通常のアプリでは使える、もしくは使えていた機能が利用できないため、初めてApp Clipを利用する人など一部のユーザーには「不便」という印象を与える可能性もあります。
常連客やヘビーユーザー、もしくは利用頻度が高くなるアプリについては「通常のアプリ」の登録を進めるといった施策が求められます。

提供者のデメリット

提供者にとってApp Clipを開発、導入するうえで最も気になるのが「日本で普及するのかが未知数」という点ではないでしょうか。

現状、App Clipを使うにはフルアプリをストア配信する必要があります。
App Clipはまだ搭載されて間もない機能であるうえ「iOS14以降のiPhoneユーザー限定」の機能なので、全ての顧客に対してサービスを提供できるわけではありません。

また、Androidでは「InstantApps」というミニアプリがありますが、ほとんどのスマホ端末ではデフォルト利用OFFになっているようです。
OSのデフォルトがOFFとなっているままでは、開発・導入をしても利用者に立ち上げてもらえない可能性が高いといえるでしょう。
そのため現時点では、開発導入コストを回収できるかは不透明な部分も少なくありません。

ただし、前述した「顧客体験の向上」や「DX・キャッシュレス決済の推進」においてApp Clipは大きな効果が期待されています。
先行者になるためにも、NRIデジタルが実施した実証実験の動向などをチェックしておいて損はないでしょう。

App Clipに今後も注目しましょう

App Clipについての基礎知識、そしてNRIデジタルが実施したApp Clip実証実験の結果について紹介してきました。

App Clipが日本でどれだけ普及するかは不明瞭な点も多いですが、アプリの提供者目線の機能であるため導入することで幅広いメリットを得られる可能性が大きいです。
iOS14以降のユーザーはこれから増加し続けるため、早めに導入することでインパクトを与えられることもメリットです。

NRIデジタルではApp Clipの企画から導入、運用まで幅広く支援しております。ぜひご相談ください。

お問い合わせ先

NRIデジタル株式会社 DX企画 鈴木(求)
E-mail:concierge-service-team@nri-digital.jp

   


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