SPECIALIST

多様な専門性を持つNRIデジタル社員のコラム、インタビューやインサイトをご紹介します。

BACK

新しいDX技術・案件への取り組みを推進する

上杉 冬美

--上杉さんの特筆すべきDX関連技術・スキルを教えて下さい。

DX関連案件を含め、新しい取り組みの推進役となることが多いです。昨今、DX関連技術やスキルが多様化しており、それぞれ専門技術が異なるメンバーと協業しながらプロジェクトを進める機会がより一層増えると思います。DX技術を理解しつつ、プロジェクトを進める推進力(リーダーシップ)が今の時代に必要なスキルであると考えています。

学生時代は生物化学を専攻しており、ITは門外漢でした。ですが、よく考えると自分が全てのIT分野のプロになることは不可能ですし、なにかのプロである方たちもそれ以外の分野ではプロではないのです。このような思いから、技術を理解した上で社内外にわかりやすく広め、周りの人たちと繋げる活動に力を入れたい、と強く感じるようになりましたね。

具体的なDX関連技術としては、今までUI/UX、アジャイル開発、マイクロサービス等などのDX関連技術に取り組んできました。これらの知見をプロジェクトに実践的に適用し、定着を目指す営みを行っています。

--こうしたスキル・キャリアをどのように培ってきたのでしょうか。

野村総合研究所(NRI)に入社して以来、NRIデジタルの一員となった現在まで、通信事業に携わってきました。

最初の数年携わった決済システムは、24時間365日無停止で、99.999%の可用性がシビアに求められる難易度の高いシステムです。世界トップのIT企業と協業する機会もあり、SEとしてのスキルを存分に磨くことができたと思います。通信事業は3ヶ月に1度とリリーススピードが非常に速く、常に取捨選択が必要で、「走りながら考える」基礎力も身につきました。

また、純粋にプログラミングとAWSをいじるのが大好きな優れた技術者集団の中にいて、自分がその領域にたどり着けるのか、組織やプロジェクトでどんな価値が提供できるのか、自分のユニークな点や好きなことってなんだろうと自問自答するようになりました。

その流れで、関心をもったUI/UXについて、独学を続けました。2019年にはDX人材育成研修に参加し、3ヶ月間サンフランシスコに滞在して0→1のサービス・デザインを実践することで、デザイン思考とアジャイルの基礎を身につけました。その後は、契約を行うWebフロントシステムのDXプロジェクトにて、iPadアプリのフロントエンドアーキテクチャの検討や、マークアップエンジニアと協業したアジャイルスタイルのUI開発などを担当する機会を得ました。

マイクロサービスやアジャイル開発に先駆的に取り組んできた

--マイクロサービスへの取り組みについて、詳しくお聞かせください。

当時NRIにはまだまだマイクロサービスの知見が少なかった中、2019年にマイクロサービスR&Dにて一連の調査を行った後、前述のDXプロジェクトにて商用にもマイクロサービスを導入しました。R&Dにてプロトタイプのアプリのお客さまへのデモを行った際、「実際に動くものが一番!」と高評価をいただき、商用の導入に持ち込めるほど良い関係性を築けたことは大いに自信になりました。

プロトタイプアプリをどうすればお客さまに魅力的に、かつお客さま参加型で見せることができるか何度も何度もリハーサルし、プロトタイプの作成時間と同じくらいの時間を費やしましたが、作って終わりではなく他人にわかるようにアウトプットすることで初めて価値が得られるのだと実感した出来事でした。こうして初期構築から、アプリチームの一員としてプロジェクトに入り込みました。

マイクロサービスは、複数の小さなサービスを組み合わせてひとつの大きなアプリケーションを構成する、ソフトウェア開発の技法の一つです。今まで全ての機能を一つの塊(=モノリス)で作成するという手法が多かったのに対し、システムをより機敏に・早くリリースするための手段として近年注目されている手法です。

システムをより機敏に動かすために、小さなサービス同士は疎結合で自律的に起動できなければならないため、コンテナ化(さまざまなサービスを小さな単位に分けて、基盤上で動作させる仮想化技術)が必須です。またコンテナ化に伴い、コンテナ同士を管理するサービスメッシュ(アプリケーションの代わりに各サービス間の通信を制御する専用のソフトウェア)や、自動デプロイのためのCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリーの意。アプリの開発からテスト、提供、デプロイに至るまでのプロセス全体を継続的に統合、自動化、監視する手法)などさまざまな周辺技術があります。今まで一つだった機能のサービス分割を行うので、アプリチームの設計の難易度は高くなります。

CI/CD・コンテナ・サービスメッシュ等の一連のアーキテクチャは基盤やアプリ基盤チームが構築するのですが、アプリチームもマイクロサービスの概念を理解して適切なサービス分割を行い、運用していくことが求められます。アプリ向けのR&D内容説明会を開催したり、サービスのありかたを共に考えたり、基盤とアプリを巻き込んだ振り返りを開催したり、1つ1つは小さくて地味な活動ですが、心の壁を破るような取り組みを意識的に行ってきました。

また最近は、さらなる顧客体験の提供スピード向上のため、スクラムマスタとしてお客さまとともにアジャイル開発の導入に取り組んでいます。本格導入し始めたばかりですが、「とにかくやってみて前例を作る」をモットーに最低限のツールとドキュメントを整え、アジャイルやりますと宣言して見切り発車で始めました。幸い、やりながら徐々に改善を重ねて段々と形になってきています。スケジュール・品質・スコープ・要件調整…今までシステム側だけで決めていたことをお客さまと一緒に考えるため、共創感・納得感が芽生え、お客さまとの関係性も醸成されているように感じます。

マイクロサービスやアジャイルの導入は小さな取り組みの上に成立する

--DXスキルを実際のビジネスに活かすうえで、大切にしていることは何でしょうか。

「お客さまのKPIを常に意識し優先順位をつける」ように気をつけています。例えば、エンドユーザ向けアプリで、1つの画面遷移で数秒以上待つケースがあり、性能改善が必要とメンバーに説明しても理解が得られないことがありました。なぜだろう?と振り返ると、自分が以前携わった決済システムで求められた厳しい性能要件に慣れすぎており、無意識的に同じ品質を押し付けていたことに気づいたのです。結果的に、性能は問題視されませんでした。この案件では、エンドユーザの体験に刺さる改善(=新機能や、画面の変更など)をいかにはやくリリースするかが最重要だったのです。

それ以来、お客さまのKPIはサービス特性により全く異なる事に気づき、頭の念頭に置くようになりました。

--これからどんなDXビジネスに関わっていきたいですか?

今後はサービスデザイン側に関わり、新しい通信業界のあり方について考えていきたいです。DXプロジェクトでは、サービスデザインの方々との距離がぐっと近く、より一層その思いが強くなりました。コロナ禍であらゆる産業に新業態が増えている現在、これらの声にも、新ビジネスを創出する種が転がっているのでは?と思っています。